マツド・サイエンス研究所

模型飛行機を飛ばそう

もの作りのためには、模型飛行機を作って飛ばすのが良いと、昔から思って居た。

私自身、小学生から中学生にかけて大量に模型飛行機を作った経験が、現在の技術者としての基礎になっている。

そう思って居たら、同じような経験や考えを持つ人は、他にも居ることに気付いた。

一人は、東大の JM 先生で、超低コストで超高速なコンピューターを作ってしまう人だ。この先生も子供のころ大量に模型飛行機を作ったくちだ。

もう一人は、ISAS の TM 先生で、幾つかの科学衛星のプロジェクトを進めた先生だ。この先生の場合、先生自身の経験ではなく、科学衛星のミッション機器を作ってくれる企業の話しだ。その企業では、新人を育てるために模型飛行機を作らせるのだと言う。

お二人の話しを聞いて、「我が意を得たり」の気になった。とは言え、具体例が 3つしか無いので、統計的な処理も科学的考察もできない。

ここは、独断と偏見による自説になってしまうことは勘弁して欲しい。

繰り返しになるが、ここに書いてあることは、私の独断と偏見による自説だ。JM 先生と TM 先生のお二人とは「もの作りのためには、模型飛行機を作って飛ばすのが良い」ところまでは合意したが、それ以降の詳細に付いては、私が勝手に独断で考えたものだ。従って、その責任は私にある。

「創造的なもの作り」には、模型飛行機を作って飛ばす経験が役に立つ。

この時、模型飛行機は、飛ばなくては駄目だし、飛ばさなくては意味が無い。

よく、「プラモデルのような模型を作っても良いのでは?」と言われるが、飛ばない模型を作っても意味が無い。

同様に、飛ぶ模型飛行機の中にも実機のスケールモデルがあるが、これもできれば避けたい。どうしても実機に似せることに夢中になり、もの作りの本質を見失う可能性が高い。

私が、「プラモデルのような模型」や「スケールモデル」が「良いの悪い」の言って居るのは、あくまで「創造的なもの作りの役に立つか」だけでの話だ。また、私の言う「創造的なもの作り」は、「技術的・機能的な面」に偏重して居る。だから、「プラモデルのような模型」や「スケールモデル」も「芸術的・造形的面」を重視したもの作りには役に立つかもしれない(私はアートの専門家ではないので判断できない)し、もとより趣味や遊びで作るなら別に本人が楽しければ、それを否定するものではない

最初は、模型屋とか玩具屋に行って、「A 級ライトプレーン」を買うのが手っ取り早い。300 円から 500 円程度で、細長い紙の袋に入って売って居る。

くれぐれも、零戦とかムスタングのようなスケール機を買わないように。スケール機を飛ばすのは凄く難しいのだ。

作り方は、ゴム動力飛行機に 詳しく書いてある。

木工用瞬間接着剤(100円ショップに置いてあるもので十分)と、クッキングペーパーを使うと良い。

食卓などの、できるだけ広い平らな場所にクッキングペーパーを敷いて、その上で作業する。翼の骨組みなどは、実寸大体の設計図の上に半透明のクッキングペーパーを敷き、その上で組み立てる。接着剤が垂れても、クッキングペーパーには着かないので安心だ。

この方法は、ライトプレーンのような竹ヒゴ骨組みの翼の場合、効果が小さいかもしれないが、もっと本格的なリブ組翼には効果絶大である。

最初は、説明書通りに、ストレートに作ろう。歪まないように丁寧に作る。

プラモデルと違って、接着剤が多すぎて、はみ出ても良い。接着剤不足で強度が足りなくなるよりは、すっと良い。

もちろん、軽量化のためには、接着剤は必要最小限の方が良い。だが、最初の内は、ちょうど良い量が判らないから、接着剤は少ない過ぎるよりは多い方が良い。一般的にプラモデルしか作った経験が無い人が、最初に模型飛行機を作る時、接着剤が足りず、強度不足になる傾向にある。模型飛行機作りに上達したら、徐々に接着剤を減らし、ちょうど良い量を探るようにする。

完成したら、できるだけ広いところで飛ばそう。うまく飛ぶまで、何度も調整し直そう。うまく飛ばない時は、主翼・尾翼が歪んで居るか、しっかりと固定されて居ない、もしくは重心位置が狂って居る場合が多い。

このような模型飛行機は、距離を競うのではなく、滞空時間を競う。旋回させて、できるだけ同じ場所で周回するようにする。ゴム動力飛行中は右旋回で急上昇し、左旋回で滑空させるパターンにする。

私が子供のころは、A 級ライトプレーンの場合、30 秒が目標だった。

「たった 30 秒」と思うかもしれない。だが、自分が作った模型飛行機が、最初に 10 秒超えたら、十分に感動するぞ。

まずは、15 秒から 20 秒を目標に飛ばそう。最初の機体から、これだけ飛ばせる人はまず居ないだろう。

墜落して壊れたり、風に流されたりして、新たに作り直さなければならない場合がほとんどだ。そもそも、最初の機体は、上手く作れて居ない場合が多い。

A 級ライトプレーンは、高価なものじゃないから、諦めて、3・4機は無駄にするつもりで作る。

何機かつぶして、15 秒超える頃には、「もの作り」の最初のコツが判って居るはずだ。

ちゃんと飛ぶ飛行機には、正確な組み立てと、十分な強度、そして、繰り返し飛ばして調整することが必要だ。

次の段階は、改造してみよう。

何処をどうやって改造すれば良いか自分で考えて、30 秒超えを狙おう。

まず間違いなく、最初の「自分で考えた改造」は、アイデア倒れで、改造しない方が良いような結果を生むだろう。

何回か、試して居る内に、徐々に上手くなって行くはずだ。

次は、オリジナル機を作ってみよう。

オーソドックスな形状でなくても、無尾翼機でも先尾翼機でも何でも良いから、自由な発想でユニークな機体を作ってみよう。

模型飛行機にも、設計理論があるが、最初は、それに捕らわれない方が面白い。

これまた、「ユニークな機体」は、思ったように飛ばないのが普通だ。

ちゃんと飛ぶようにするためには、飛行原理だけでなく、安定性など色々と考慮することがある。

今度ばかりは、設計理論を勉強した方が良い。

「改造」や「オリジナル機作成」ができるようになると、「もの作り」の、第2、第3のコツが判ってくる。

第1のコツが「設計されたものを正確に作ること」なら、第2、第3のコツは、「設計すること」と「設計の善し悪しの評価」である。

順序が逆だと思われるかも知れないが、「設計の善し悪しを評価すること」から説明しよう。

「設計の善し悪しの評価」は、単純明快だ。

「良く飛べば良い設計」で、「飛ばなきゃ駄目な設計」だ。

「格好良い」だとか「スマート」だとか「美しい」とか、そんなものは一切関係ない。

飛べば良いんだ、飛べば!

模型飛行機と言えども、飛行機は、物理法則によって飛ぶ。

アイデアやデザインが、最初、どんなに良く思えても、格好良く見えても、半端な小細工は、物理法則には通用しない。

人間の主観が判断基準に入るなら、温情判決も残念賞も努力賞もあるかもしれない。

しかし、物理法則には、そんなものはない。単に駄目なものは駄目なのだ。

そう言った冷たい方程式で「設計の善し悪し」を決めることは、厳しすぎると思われるかもしれない。

だが、その一方で、物理法則は、フェアで公平だ。

もし、人間の主観が判断基準に入ると、どうしても心情や先入観や固定観念に左右される。だから、あまりにも斬新なアイデアは拒絶される傾向にある。

あなたのアイデアが斬新で、どんなに奇妙奇天烈・摩訶不思議に見えようが、それが正しければ、飛ぶ。

もし、人間の主観が判断基準に入ると、やれ、前例が無いだの、実績がないだの、とやかく言われたあげく、評価する人の先入観や固定観念に縛られてしまう。

だが、物理法則が相手なら媚び諂う必要も無ければ、訳のわからん先入観や固定観念を気にする必要も無い。

単に、正しければ飛ぶし、そうでなければ飛ばないだけだ。

もう一つ、良く飛ぶためには、軽量化が効果的であることが判るだろう。飛行機は軽ければ軽いほど良く飛ぶ。特にゴム動力機のようにパワー余裕の無い模型飛行機では、その傾向が顕著だ。

軽量化に効果的なのは、不要なものを削ることだ。「不要なものを削る」と言うのは、言葉では簡単だ。しかし、「不要なものを削る」ためには、「何が必要不可欠」で「何が不要」かを見極める「眼」が必要だ。

常識的に必要と思われているものでも不要なものはある。逆に一見大したことが無さそうなものでも必要不可欠なものもある。

「不要かな?」と思うものがあれば、実際に外して、飛ばしてみればよい。本当に不要なものなら飛行に影響ないし、逆に必要なものなら外すと飛ばなくなる。

必要か不要かの判断は、常識とか先入観に捕らわれずに、物理法則によってのみ行う。

「設計の善し悪しの評価」の物理法則が身をもって理解できれば、「設計すること」も判るはずだ。

飛ぶためには、どんな設計も正当化される。どんなに斬新なアイデアも可だ。

また、軽量化のために、「必要か不要かの判断」ができるようになれば、「モノの本質」を見抜く眼も鍛えられたはずだ。

「常識に捕らわれない斬新なアイデア」と「モノの本質を見抜く眼」こそが、「設計すること」だ。

私が、「もの作り」のための模型飛行機作りとして、「プラモデルのような飛ばない模型」や「スケール機」を否定するのは、ここに理由がある。「プラモデルのような飛ばない模型」や「スケール機」の場合、どうしても人間の主観的な判断が入り、また、実機を真似るために、斬新なアイデアを妨げがちになる。その上、「不要なものを削る」どころか、むしろ「飾り立てる」事が評価されるので、「モノの本質を見抜く眼」が養われないのだ。

模型飛行機を作り、飛ばすことを通じて、もの作りに必要な「設計すること」「設計の善し悪しの評価」「設計されたものを正確に作ること」の3つが鍛えられることを説明した。

実は「もの作り」には、もう一つ上のレベルがある。それは、「価値そのものの創造」だ。

ここまで「模型飛行機は飛ぶこと、飛ぶ時間が長いこと」を目標にすると説明して来た。つまり滞空時間を模型飛行機の価値と位置付けて居た。

しかし、滞空時間の代りに飛行距離や速度など、別の価値基準に置き換えることもできる。

私の全く想像できないような価値基準もあるだろう。それを考え出すのが「価値そのものの創造」だ。

「価値そのものの創造」には、それまでの「設計すること」「設計の善し悪しの評価」「設計されたものを正確に作ること」とは、別の次元のセンスが要求されるので、このセンスを養うために模型飛行機が役に立つかは判らない。

たが、一般的に「価値そのものの創造」は、安直に捕らえがちで、誰でもできそうにも思えてしまう。しかし、「設計すること」「設計の善し悪しの評価」「設計されたものを正確に作ること」と言った基礎ができていなければ、「価値そのものの創造」は、裏付けの無い、空虚な妄想になってしまう。

「価値そのものの創造」のセンスを養うためにも、模型飛行機が有効だと言える。

模型飛行機を通じて鍛えたもの作りのセンスは、模型飛行機のみならず、他の「もの作り」にも応用できる。

天気の良い週末は、近くの公園の広場で模型飛行機を飛ばすのが楽しい。

一緒に行った息子には、模型飛行機を通じて「もの作り」を伝えたい。しかし、そんな親心を知ってか知らずか、息子は模型飛行機よりも公園にあるフィールドアスレチックに夢中になることが多い。

そんな模型飛行機を飛ばしに行く公園の広場が、つくばエクスプレスの開通で、狭くなってしまったのが、ちょっと寂しい。

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参考になりそうなリンク

ゴム動力模型飛行機の専門店 KOTOBUKI 通信販売でゴム動力機を買える模型店。ここで扱って居る「ヨシダ」と言うメーカーの A 級ライトプレーンは、ストレートに作っただけでも、 30 秒を超えるらしい。ただ、HP を見る限り、全くの初心者が「ヨシダ」の A 級ライトプレーンを作るのは難しそうだ。普通の模型屋や玩具屋で売って居る A 級ライトプレーンは、ユニオンなどの製品が多く、こっちの方が作るのは簡単だ。ユニオンなどの A 級ライトプレーンに作り慣れてから挑戦した方が良いと思う。

MICRO PAPER PLANE 驚異的に小さい滑空機とゴム動力機を紹介して居る。これで飛ぶと言うから驚きだ。まさに、常識や先入観に捕らわれない斬新な模型飛行機だ。

ゴム動力スケールモデルの世界 本格的なバルサ組のゴム動力スケールモデル。スケール機は・・と言いつつ、特に Focke-Wolf Fw-190D-9 の製作記事は凄い。

MODEL WARBIRDS 実は、私も壊れにくい素材としてスチレンペーパーに注目して居る。スケール機は・・と言いつつ、スチレンペーパーを使った零戦などは凄い。

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