マツド・サイエンス研究所

コミケ報告 その3

前回・前々回に続いて、8月12日のコミケの報告の3回目。今日はちょいと固い話。おそらく、これでコミケの報告は最後になる。

コミケは、同人漫画のみならず、電子工作のようなハードウエアのオリジナル作品を発表する場としても有効だと言うのは、前々回書いた通りだ。これは、コミケに限らず、Makeフェアーやワンフェスにも同じ事が言える。また、コミケは電子工作だけでなく、機械加工などのハードウエアの発表するのにも有効だろう。

個人が自分で考えたオリジナル作品を発表する。これは、その分野の活性化には不可欠なものであり、コミケは漫画やアニメの分野で何十年も前から、その役目を果たしてきた。その結果、若い才能が芽を開き、クールジャパンと呼ばれる日本オリジナルの文化を生んだのは、私があえて言うまでもない。

コンピュータ・プログラムのようなソフトウエアの世界では、パブリックドメインやオープンソースと言った仕組みが、新しい文化を生む土壌になっているが、残念ながら、日本での認知度は海外に比べて低く、その結果として、海外よりも日本のソフトウエア開発力で後塵を拝する結果となっている。これは、スマホの主流の一つであるAndroidの例でも明らかだろう。

しかし、電子工作や機械加工によって作られる技術的なハードウエア作品の発表の場が少なく、それが日本の技術力低下に繋がっていると、少なくとも私は考えている。この場合「ハードウエア作品」は、フィギュアやミニチュア模型のように外観形状デザインが主で観賞用の動かないものではなく、なんらかの技術的仕組みで機能する作品を指す。フィギュアやミニチュア模型であれば、既にワンフェス等での発表が定着しており、それがクールジャパンの一つの要素になっている。

「機能するオリジナル作品」は、今まで大企業の大量生産で供給されていた。30年前のウォークマンが、その例だ。しかし、少品種大量生産は利潤が大きい一方リスクも大きく、ただでさえ数少ない『新しい作品』の開発に、飛躍したオリジナリティを入れることが難しくなっている。このため、特に日本では、新しい作品を作ると言う『モノ作り』の技術が低下している。日本全体の技術、特に『新しい作品』を飛躍的なオリジナリィを持って作る技術の向上のためには、個人個人が『新しい作品』を発表する機会を増やす事が必要だ。

一方、従来は個人が「機能するオリジナル作品」を発表するのは難しく、その原因は、大きく次の2つだと考える。

1) 開発・製造に物質的コストがかかる事。

2) 機能の再現性が難しい事。それに伴い改変・再配布が難しいこと。

ハードウエアを開発し作り、配布するために生産するためには、部品購入などのコストが必要なのは当然だろう。しかし、コンピュータ・プログラムの場合、当人の人的コストを度外視すれば、コンピュータの電気代やネット等の使用料はともかく、物質的なコストはかからない。漫画であれば、製造料としての印刷代が必要であるが、ハードウエアに比べれば安い。

また、コンピュータ・プログラムであれば、ダウンロードしたアプリケーションが動作する率は高く、さらにソースコードが公開されていれば、それを改変・再配布することは容易だ。漫画の場合、コピーを取れば複製するよとは容易だし、二次創作として改変・再配布することもできる(これはあくまで技術的に可能と言う意味。もちろん、著作権などの倫理的な問題は別にある)

これに対して、ハードウエアの場合、回路図通りに配線したとしても、ちょっとしたハンダ付けのミス等で動作しないことは良くある。それどころか、例えミスなく配線しても、私の作ったオーディオプレーヤの音を再現できる保証はない。それほどにアナログ系の配線は微妙なのである。

しかしながら、電子回路は、ハードウエアの中では再現性がある方で、機械加工品は更に難しい。特に燃焼を伴う機械すなわち内燃機関など、例え設計図通りに作っても全く動かないと言う可能性が高い。

単なる再現性ですら、こうなので、ましてや改良し再配布することなど更に難しいと言わざるを得ない。

そもそも、技術的な工作品において、オリジナル性を主張するほどの「作品性」を持たせる事などできるのかと言う点で疑問を持たれる方も居るとは思う。しかし、この疑問に対する私の答えは明確で「芸術作品と同じく、技術作品においても作者のオリジナル性を反映する作品性を持たせる事は可能だ」と言うことだ。

言い換えれば「技術製品において、機能にアート性を持たせる事」とも言える。これが、40年に渡りオリジナル作品を作り続けてきた私の到達した思想だ。

具体的に、私が今回のコミケで披露したオーディオプレーヤにおいて「機能作品してのアート性」が何であるかは、言葉で言い表すのは極めて難しい。しかし、オリジナルのオーディオプレーヤを作り続けて1年強、設計的に3世代を経て、私なりの『音』をオーディオプレーヤに入れる事に成功しつつある。それが未だ理想的なものでは無いにせよだ。

そして、それは言葉で説明することはできなくても、コミケの会場で試聴してもらった多くの方々には通じた。ほとんどの人は「イイ音がする」と言う反応で、それは私のオーディオプレーヤのアート性の理解の入り口だと思う。しかし、わずかに少数ながら、私がオーディオプレーヤに入れたアート性の存在そのものを理解した人も居るには居た。それが、その人が気に入るか否かは別にして、私が作り出した『音』のオジリナル性とアート性の存在を認める事に他ならない。

繰り返しになるが、私のオーディオプレーヤに込めた『音』のアート性は、言葉で言い表すことは困難で、やはり『音』自体を聞いてもらう他に良い方法は無い。実際に音を聞いてもらうと言う機会と言う意味で、やはりコミケはは、非常に良い舞台である。

ただし、前々回のブログで既に述べたようにオーディオプレーヤは、イノベーションと言う意味では半人前だ。イノベーションは、技術的飛躍だけではなく、新たな価値観の創造と言う意味を持つ。携帯型オーディオプレーヤは、既に30年以上前にSONYによってウォークマンと言う形で世に出され、『携帯性』と『音の良さ』と言う評価基準も定まっている。要は私のオーディオプレーヤもハイレゾ対応と言う新しい技術の導入はあっても、所詮既存の土俵で戦っているに過ぎない。

今回のコミケに出展した、もう一方のデータロガーは、私自身のオリジナルであり、そもそも『データロガー』と言う名称の枠組みを超えた可能性を秘めている。しかしながら、4月からの開発と短期間であり、評価も定まっておらず、他人にその『作品性』を訴える程、熟成していない。そのため、売上もオーディオプレーヤの半分となった。このデータロガーのように、その価値観・評価基準すらもオリジナルな作品こそ、真の意味での『オリジナル』と言えよう。今後は、こう言った真のオリジナル作品を作り、発表することに、より力を入れたい。

話がそれたが、主題は、「機能するオリジナル作品」におけるコミケの役割・有効性である。ハードウエアを伴う作品の開発生産には、物質的コストが伴う事が問題であるのは既に述べた。しかし、前々回のブログでも書いたように、近年、オリジナル作品の少量生産に必要なコストが激減しており、コミケなどを通じて、数十個販売することができれば、損をしない程度になっている。今回は格安になったプリント基板製作がキーになったが、いずれは、SOC(システムオンチップ)も格安で作れるようになり、それがコミケで売られるようになるだろう。

また、「機能作品してのアート性」を理解してもらうためには、実際に見て聞いて触ってもらうと言う貴重な機会をコミケは持つ。

こうした「オリジナル作品」が人から人へ渡り、進化し続ける事が、本当の意味の日本の技術力の向上に繋がると、私は信じている。

もう一つの「再現性・改変・再配布が難しい」ことに対する答えは未だ無い。

今回、我々のサークルでは残念ながら赤字であったが、後に続くものに、せめて損をしないためのノウハウとして、箇条書きであるが、私の気付いた点を羅列しておく。

・「ハイレゾ」と言った「売り言葉」を用意し、できれば大きく書く。

・「ハイレゾ」は時流に乗った

・ちらしは多いほうが良い

・シリーズ物にしたり、レギュラーにした方が売れる。

・試聴は高いイヤホンではなく、5000円以下のイヤホンの方が良い。

 (高いイヤホンだと、良い音はプレーヤのせいではなくイヤホンのためと思われる)

・午前の方が売れる、除く10:00〜10:30

・AC100Vは無いので、バッテリーを多めに準備

・携帯電波特にスマホは混雑のため、なかなか接続できない

・太文字マジックやホチキスは必須。

・実装基板はオペアンプを付けずにいたが、完成品にすべきだった。

・逆にQFPのみ付けると言うった組み合わせもありか?

・汗が動作中の基板に落ちて、オーディオ基板が1枚アウト

 真夏のコミケならではのアクシデント

・しかし一方試聴としては、むき出し基板の方が迫力がある。

 防湿コーティングが必要?

 それとも透明ケースか?

 ともかく、イソプロピルアルコールで洗浄したら直った。

以上が、どこまで役に立つかは判らないが、今後、コミケにオリジナル作品を作って参加する方は是非参考にして、少しでも赤字を少なく、できれば黒字を出して、小遣い銭でも稼ぐようにして欲しい。そうすれば、ただでさえ家族から「また無駄使いして、変なものを作って」と非難されることも減り、新たなオリジナル作品の開発に勤しめる事うけ合いである。

こうやって、多くの人がオリジナル作品を作り発表し続ける事が、日本全体の技術向上に繋がることは疑い無い。しかし、コミケ程度では、赤字を出さずに小銭を稼ぐ事はできても、大金を儲ける事も、雇用を生み、日本経済を支えるところまで繋げる事は、私には未だ方法が判らない。誰か、このミッシングリンクを見つけて、儲かる方法を考えて欲しい。

他にやることもあるので、とりあえず今年末の冬コミは止めて、次回は来年の夏コミに参加予定する予定だ。来年の夏コミまでには、オーディオプレーヤは更に磨きをかけ、データロガーは『作品』として熟成をし、それら以外にも幾つか新しい作品を持ち込めるようにしたい。

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