野田篤司の英国文化考

その16 キットカーと自作スポーツカー(8)  日本でのナンバー取得 10th September 1998


 本ホームページの読者の方が、日本におけるキットカーのナンバー取得の可能性を、陸運局に直接インタビューを行った。今回は、その衝撃的な内容をお伝えする。
 なお、今回の内容に関しては、「英国文化の紹介や考証」ではなく、日本におけるナンバー取得の現状を報告するものではあるが、本ホームページの読者が、特に興味を持たれている内容と思われるので、あえて「英国文化考」の一コンテンツとして扱うものとする。

はじめに

 今回のコンテンツに関すれば、私自身が調査した内容ではなく、九州にお住まいの後藤 哲文さんと言う方が、地元の熊本陸運局の担当者に直接インタビューした話が中心である。実に、行動的な方で、このインタビュー結果を得たことを彼に感謝をしつつ、本コンテンツを読んでいただきたい。

 さて、本題に入る前に、このインタビュー結果を得る前に私が行っていた情報収集を説明しておこう。

 現在、私は英国在住なので、直接陸運局へ行くことはできず、インターネット上で情報を得ようとしていた。また、風の噂で、「ナンバー取得には、試験に裏付けられた強度計算書の提出や法令基準の適合等、会社を一つ起こせるだけの技術力と事務処理が要求される。一方、キットカーであっても、生産国での正規な車検に合格した場合は、強度計算等の書類はほとんど要求されない。」と聞いていた。

 「強度計算がいるんなら、強度計算すりゃいいんだな。強度試験にしても静的荷重試験なら、簡単なはず。動的な振動試験まで必要となると設備等が大変だが、不可能ではない。仮にクラッシュ試験のような破壊試験が必要なら、シャーシだけ2つ買ってやれば良い。(Stylusのシャーシは690ポンド)もちろん、ライト等の保安基準や排ガス規制もクリアするようにします。別に型式認定を取ろうと言うんじゃないので、とにかくナンバーさえ取得すれば良いんだから。」と甘いことを考えていた。
 強度計算にしても、最近のパソコンなら、フリーの構造計算用の有限要素法プログラムが、ネット上から入手できるし、試験もノートパソコンやFOXでデータ取得解析すれば、それだけで、ホームページの面白いコンテンツになるぞ・・・なんて考えていた。

 ところが、現実は、どうもそんなに甘いもんじゃ無いらしい!

陸運局 衝撃のインタビュー

 ここからは、いよいよ後藤 哲文さんによる熊本陸運局の衝撃のインタビュー結果である。以下、Qは後藤さん、Aは陸運局の担当官による会話である。文章は、「野田による註」と書いた部分以外は、全て後藤さんからのメールのままである。

−−− 以下、後藤さんからのメール −−−
Q:部品の形で輸入し、国内で組み立てた車を登録する事は出来ますか?
A:結論から言えば可能です。ただし、その為には、国内の保安基準に適合していなければなりません。
Q:それはつまり、フレームの強度であるとか、前照灯の光軸であるとかですね?
A:はい。他にも、ボディの強度等、数多くの基準があります。
Q:ちなみに、ボディの強度を証明するためには、どうすればいいのですか?
A:具体的には、前面衝突試験、側面衝突試験等を、実車を対象に実施します。
Q:ということは、試験を一種類やるたびに、車を一台スクラップにする・・・と?
A:もちろん例外もあります。これらのテストは、形式認定の為に必要な物です。ですから、すでに形式認定を所得した車種の同型車については、既に提出されたデータを使えます。
Q:では、イギリスのバックヤードビルダーのような小さいメーカーの製品では・・ ・。
A:断言できる立場にありませんが、(既存のデータの流用は)難しいのではないでしょうか。
Q:その、データについてお尋ねします。国外のデータを流用することは可能ですか?
A:どの国からの輸入をお考えですか?
Q:イギリスです。
A:でしたら、ECの基準ですね。ECの保安基準の項目と、日本国内の基準の項目で、対応している部分については番号が振ってあります。この、番号が振ってある項目については、実際のテストは省略できます。もちろん、対象車がECの基準をクリアしている必要がありますが。(野田による註:文末にある「自動車整備車両保安関係通達集」と言う本を読みながら、会話しているようである)
Q:つまり、EC加盟国内で車検を取っていればいいのですね?
A:詳しく言えば、ECの車検を所得している車であれば、日本での形式認定が取りやすくなる、という事ですね。
Q:形式認定と車検と、どう違うのでしょうか?
A:一般に車検と呼ばれているのは、認定された形式から逸脱していないかを確認する物です。車検をクリア出来る車なら、なんでも公道を走れるわけではありません。
Q:なるほど、そもそも形式認定を通らない事には、車検でチェックする項目が出て来ない。つまり車検を行なう対象にならない、と。
A:そういう事です。
Q:ところで、先程うかがったECの保安基準との対応項目についてですが、具体的に、どういった物があるのですか?
A:その点については、私どものような小さな支局では扱っていませんので・・・。ええっと、こちらに載ってます、『(財)日本自動車輸送技術協会 昭島研究室』というところが試験場ですので、そちらにお問い合わせ下さい。
以上、陸運局内でのやりとりです。
うーん、形式認定って、商品として販売する為に必要な物、と思い込んでいました。
・・・、もの凄い壁がありますね・・・。
ただ、対応して下さった方が、終始好意的であったことが、気分的に救いでした。
試験場の所在地です。
東京都 昭島市 拝島町 3924
電話: 0425−44−1004

それと、係官の方から見せて頂いた資料です。
自動車整備車両保安関係通達集
運輸省 地域交通局  監修
(株)交文社  発行
¥5200

これは1630ページもある分厚い本で、列記された基準項目の量にはめまいを覚えそうでした。
−−− 以上、後藤さんからのメール −−−

さて、どうしよう

 後藤さんからは、「陸運局の親切な対応に感謝している旨」を繰り返し強調しているように、思ったよりも陸運局の対応は良いらしい。いきなり門前払いと言うことは無さそうだが、キットカーのナンバー取得が困難なことにはかわりがない。

 どうやら、私も後藤さんも「形式認定とは相当数の車を生産・販売するために必要なもので、キットカーのようにたった一台作るためには不要」と思っていたのが、そもそもの勘違いらしい。でも、こりゃ「形式認定」取るのは至難の技だぞう。ホンダだって、ミツオカだって、最初に「形式認定」取るのは凄く苦労したんだそうだし。

 大体、私は、個人レベルで、車作って、それを公道で走らせたいだけであって、「日本第11番目の自動車メーカー」を作ろうなんて、大それた気は無いのだが・・・

 本当に、たった一台の車でも「形式認定」が必要なのか、『昭島研究室』に確認を取りたいところだが、いくらなんでも九州にお住まいの後藤さんにこれを頼むのはこくと言うもの。誰か、昭島市にお住まいの方で聞いてくれると、助かるのだが・・・・

 私は、と言うと、英国滞在期間は3ヶ月を切り、とっくに英国でのキットカー組み立ては諦めた。だが、キットカー自体を完全に諦めたわけではなく、帰国後の購入を考えて、キットカー自体と必要な全ての部品を、日本から電話やFAX、電子メールを使って発注・発送し、決済を取る方法、つまり個人輸入の方法について、情報を収集し始めている。

 さて、次はどういう手に出るかな?
 このページに対する御意見、御感想が有れば、メールで送っていただければ大歓迎である。
Copyright (C) 1998 野田篤司