マツド・サイエンティスト研究所

研究報告12 スクーター型オービターは本当に飛ぶか!? the 26th o March 2000

 SFマガジンの2000年3・4月号に「宇宙作家クラブのページ」に「地球周回軌道を理解しよう」と言う記事を撫荒武吉さんと共同で著作した。
 作品自体は、題名通り地球周回軌道の力学的説明であるが、物語の脇役で登場したスクーター型のオービターについて、説明しよう。
 このスクーター型のオービターでは、「なつのロケット」の設計と全く逆のアプローチをした。
 未来のテクノロジーを使った高比推力のロケットならば、こんなに簡単に宇宙に行けるスクーターをデザインする事も可能だ。
 だが、必要となる比推力は驚くような数値ではないのだ。

スクーター型オービットの諸元

 女の子の乗るスクーター型オービットの質量配分は以下の通りである。  中型バイクと同じくらいの重さであり、女の子が自分の足で支えるには、ちょうど良い。
 ちなみに女の子の名前は「エンキドウ めぐり」であり、スクーター型オービターは「ハイパー・カブ」と言う(^o^)
 なお、スクーターらしく、当初はキャノピー無しのオープンエアで考えていたのだが、大気中で音速の数倍に達する事が判ったので止めた。オープンエアなら、女の子の首が飛ぶだろう。絵を良く見ると、地上でスクーターが倒れないように支える女の子の足の部分に扉が付いている事が判るだろう。離陸後、この扉は閉められる。そうでないと、コックピットの中は衝撃波で目茶苦茶になる。

 上記の質量配分から質量比は3であり、増速量を10km/sを達成するためには928秒の比推力が必要である。また、構造質量(定義はここ)比は12.5%である。

 この比推力928秒と言う数値は意外と少ないと思わないだろうか?
 これだけの簡単に宇宙へ飛び出せるスクーターに必要なロケット・エンジンは現在の技術の比推力を僅か2倍にすれば良いだけなのだ。

比推力と質量比

 地球周回軌道に上がるために必要な10km/sを達成するために必要な比推力と質量比の関係を下表に示す。

表 比推力と質量比
比推力質量比
200秒163.8
300秒29.9
400秒12.8
500秒7.7
600秒5.5
700秒4.3
800秒3.6
900秒3.1
1000秒2.8
1100秒2.5
1200秒2.3

 この表を見れば判るが、比推力を600秒を超えたあたりから、必要となる質量比が小さくなる。比推力が928秒とは言わず、質量比が5を切る634秒あたりから、スクーター型のオービターの可能性が出てくる。
 ここでも紹介したが、現状ではスペースシャトルのメインエンジンの比推力が最高で455秒である。倍どころか、1.5倍だけ比推力を改善するだけで、パーソナルのスクーター型のオービターができるのである。
 たった、1.5倍の改善である。簡単にできそうな気がするのだが・・・

比推力の限界

 だが、現実には、化学ロケットを使っている限り、600秒を超える比推力を持つロケットを作る事は不可能なのだ。燃料の持つエネルギーは有限であり、エネルギーの高い酸素-水素の組み合わせでも600秒を超える事はできない。
 ここでも述べたように比推力は、平均排気速度の事であり、運動エネルギーは速度の自乗に比例する事から、2倍の比推力の為には4倍のエネルギーが必要なのだ。

 イオンロケット等の電気推進の場合は、1000秒を超える比推力を出すものもあるが、これはエネルギーを太陽電池など外部から供給しているためである。電気推進自体がロケットを打上げるに必要な推力は出せないが、仮に高推力の電気推進ができても、電気のエネルギー源が無ければ高比推力の打ち上げエンジンにはならない。
 今回のスクーター型オービターの場合は反物質をエネルギー源に使い、対消滅で発生するエネルギーでプロペラント(推進剤)である水を沸騰させて噴射させる反物質・蒸気ロケットを採用している。必要な反物質の量は僅か37マイクロ・グラムだ。もっとも効率を100%で計算しているので、実際(?)にはもう少し要るとは思うが・・・

 なお、反物質を使ったロケットが事故を起こしたら、原爆とか水爆なみの被害がある・・と言う誤解も多いと思うが、37マイクロ・グラムの反物質が爆発したところで、灯油400リットルと同じ程度のエネルギーしか持っていない。灯油400リットルが爆発したら大惨事には違いないが、原爆なみではない。もっともエネルギーは灯油400リットル程度だが、放射線は酷いものだが・・・

パーソナル・ロケット バックヤード(裏庭)で宇宙船の夢

 高比推力を達成するために、反物質以外にエネルギー源に外部からレーザー光線を当てる方法も考えられる。
 現状のロケットの改良型としてはエアロブリージング・ロケットとかスクラム・ジェットと言うものもある。これらはエネルギー源の7/8を占める酸素を外部(大気)から得、ついでにプロペラントも外部から得る事だ。

 とにかく、問題はエネルギー源だ。
 高密度のエネルギーを内蔵するなり、外部から高エネルギーを得るなり、方法を考えなければならない。

 現状を僅かに改善すれば、パーソナル・ロケットも夢ではないのだから・・
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